●環境マネジメントシステム
企業などの事業者が自主的に環境保全に取り組むにあたり、方針や目標を自ら設定し、これらの達成に向けて取り組みことを「環境管理」もしくは「環境マネジメント」と呼ぶ。
このための事業所内での体制・手続きなどを「環境マネジメントシステム(EMS)」と呼ぶ。
環境マネジメントシステムの代表的な国際規格として、国際標準化機構(ISO)が定めたISO14001がある。
ISO14001の構造は、以下の4プロセスの頭文字を取りPDCAサイクルと呼ばれる。
このPDCAを繰り返す事で、環境保全の仕組みを継続的に改善できるようになっている。
ISO14001の環境マネジメントシステムを自社で構築した場合、自己宣言することもできるが、客観的に評価するため第三者機関の認証を受けて、自社の環境保全に関する取り組みを対外的にアピールするケースが多くなっている。
この第三者機関の認証は、財団法人日本適合性認定協会(JAB)が認定した審査登録機関によって行われる。
またISO14001のような環境マネジメントシステムを構築するにあたり以下のようなツールも付加的に利用されている。
●環境報告書
環境報告書とは、企業などの事業者が、自社の環境保全に関する方針・目標・行動計画、最高経営者の緒言、環境マネジメントの実施状況などについてまとめ、一般に公表するものをいう。
また第三者による環境報告書への意見を記載した「第三者意見表明書」も併せて掲載し、環境報告書の信頼性を高めている例もある。
日本では環境配慮促進法によって規定され、環境報告書の作成にあたり実務的な手引きとして環境省から環境報告書ガイドラインも公表されている。
国際的にはグローバル・リポーティング・イニシアティブ(GRI)がガイドラインを作成している。
環境省の環境報告書ガイドラインでは、サスティナビリティ報告書(環境・社会・経済の自社活動を総合的にカバーした報告書)やCSR報告書なども総称して環境報告書とみなしている。
環境省の環境報告書ガイドラインに記載されている項目概要
記載項目 | 記載項目例 |
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基本的項目 | 環境報告の概要、最高経営者の緒言など |
環境マネジメント指標(MPI) | 環境マネジメントの状況、環境に関する法令の遵守状況など |
オペレーション指標(OPI) | 事業活動に伴う環境負荷及びその低減に向けた取り組み状況など |
環境効率指標(EEI) | 事業によって創出される経済的な価値と、事業に伴う環境負荷との関連を記載する |
社会パフォーマンス指標(SPI) | 労働安全衛生、雇用、人権、地域に対する貢献、個人情報保護など社会的取り組みの状況 |
環境マネジメント指標(MPI)、オペレーション指標(OPI)、環境効率指標(EEI)の3つを総称して、「環境パフォーマンス指標(EPI)」と呼ばれることもある。
●環境会計
環境会計とは、企業が環境保全に効率的かつ効果的に取り組めるよう、事業活動における環境保全のためのコストと、その活動により得られた効果を認識し、可能な限り定量的(貨幣単位または物量単位)に測定する仕組みのこと。
この環境会計の機能は以下の2つに分けられる。
資料:環境省「環境会計ガイドライン2005年版」より
また、環境省により環境会計の作成の手引きとなる環境会計ガイドラインが作成・公表されている。
この環境会計ガイドラインに記述されている環境会計の構成要素を以下に示す。
分類 | 内容 |
環境保全コスト (貨幣単位) |
環境負荷の発生防止・抑制、発生した被害の回復に関する投資額・費用額を貨幣単位で測定する 例えば環境マネジメントシステム導入費用、環境配慮設計(DfE)のための研究開発コストなど |
環境保全効果 (物量単位) |
環境負荷の発生防止・抑制、発生した被害の回復に関する効果を物量単位で、環境パフォーマンス指標を用いて測定する |
環境保全対策に伴う経済効果 (貨幣単位) |
環境保全対策を進めた結果、企業の利益に貢献した効果を貨幣単位で測定する 例えば省エネルギーにより削減された費用、廃棄物減少により削減された費用など |
資料:環境省「環境会計ガイドライン2005年版」より
●環境配慮型の投資
企業の収益性などの財務指標だけでなく、環境保全などの社会的な取り組みを評価して投資を行うことを社会的責任投資(SRI=Socially Responsible Investment)という。
社会的に環境保全が注目をされる中、グリーンインベスター(社会的責任投資の考え方に基づいて投資を行う人)により、エコファンド(環境面での活動に積極的で、かつ株価パフォーマンスが高い企業の株式を中心とした投資信託)に資金が集まるなど、人気が高まっている。
社会的責任投資の評価方法として、スクリーニング(企業の環境やCSRへの取り組みを考慮して投資先を選択する)がある。
スクリーニングには以下の2通りがある。
●環境効率性
製品やサービスの生産に伴って発生する環境への負荷に関する概念のことを環境効率性という。
同じ機能や役割を果たす製品やサービスの生産を比較して、それに伴う環境負荷が小さければ、より環境効率性が高いということになる。
この環境効率性を評価する方法として、ライフサイクルアセスメント(LCA)がある。
ライフサイクルアセスメントとは、その製品やサービスに関わる資源の採取から製造・輸送・使用・廃棄までの全ての段階を通して、投入された資源・環境負荷・生態系への影響を定量的・客観的に評価する手法のこと。
ライフサイクルアセスメントは、国際標準化機構(ISO)の規格 ISO14040(ライフサイクルアセスメント-原則及び枠組み)で、4つの段階が定義されている。
このようなライフサイクルアセスメントは、代替製品・サービスの比較、環境目標や基準(環境ラベル)の設定などに利用される。
●環境ラベル
環境ラベルとは、製品やサービスの環境側面において、製品や包装ラベル、製品説明書、技術報告、広告、広報などに書かれた文言、シンボル又は図形・図表を通じて購入者に伝達するもの を指す。
国際標準化機構(ISO)では、環境ラベルを以下の3つのタイプに分類している。
分類 | 内容と特徴 |
タイプT ISO14024 第三者認証 |
ある環境テーマに沿った製品やサービスであることを、 第三者の認証を受けることで、消費者・利用者へ示す |
タイプU ISO14021 自己宣言 |
事業者が製品における環境改善を市場に対して主張するもの 第三者による客観的な判断は入らないが、ある基準をクリアしていることを示す もしくはその事業者自身が基準を作成し、その他の製品を評価するものもある |
タイプV ISO14025 環境情報表示 |
製品の環境負荷の定量的データの表示 合格・不合格などの基準はない |
タイプTラベルの例 | |
エコマーク 日本で唯一のタイプ1環境ラベル制度 |
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EUエコラベル EU+ノルウェー、リヒテンシュタイン、アイスランドなどが参加しているエコラベル |
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環境チョイスプログラム カナダでは唯一のエコラベル |
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ブルーエンジェル ドイツのエコラベル |
タイプUラベルの例 | |
(新) (旧) |
国際エネルギースタープログラム パソコンやその周辺機器について、消費電力に関する基準を満たす商品に付けられる |
グリーンマーク 原料に古紙を規定の割合以上に使用していることを示す |
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再生紙使用マーク または R(アール)マーク 古紙パルプ配合率100%の再生紙を使用していることを示す |
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PETボトルリサイクル推奨マーク ペットボトルを再生利用したリサイクル製品であることを示す |
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省エネラベリング制度(省エネ性マーク) 省エネ法に基づいて定められた省エネ基準達成率を示す |
タイプVラベルの例 | |
エコリーフラベル 資源採取から製造、物流、使用、廃棄、リサイクルといった製品の全ライフサイクルにわたる過程を、LCAによる定量的な環境情報を開示していることを示す |
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EPD 環境製品宣言 電子・電気・機器・科学・食品・建材など幅広い産業の製品について、LCAによる環境情報を開示していることを示す |
上記以外にも、資源の有効な利用の促進に関する法律(資源有効利用促進法)に基づいて、
ある特定の素材で製造された商品に義務付けられている「識別表示マーク」がある。
識別表示マークの例
↑「1」はペットボトルの素材であるポリエチレンテレフタラート(PET)樹脂であることを示している。
資源の有効な利用の促進に関する法律(資源有効利用促進法)では、以下の項目を柱に、循環型経済システムの構築を目的としている。
●環境アセスメント(環境影響評価)
環境アセスメント(環境影響評価)とは、土地の形状の変更、工作物の新設、その他の事業を行う事業者が、あらかじめその事業に係る環境への影響を自ら調査・予測・評価を行い、その結果に基づき適切な環境保全をするためのもので、環境影響評価法(環境アセスメント法)で規定されている。
環境影響評価法(環境アセスメント法)では、道路・ダム・鉄道・飛行場・発電所・埋め立て・干拓・土地区画整理事業などのうち、規模が大きく環境影響が著しいものとなる恐れのある事業(第1種事業)については、環境影響評価手続きの実施を義務付け、第1種事業に順ずる規模の事業を第2種事業とし、環境影響評価手続きの実施は事業者の判断に拠るものとしている。
第2種事業であっても環境影響評価手続きを実施するかの判断には、スクリーニングという仕組みが取られ、実施する場合、事業者は実施前にその方法を公表し、専門家や地域住民・行政の意見を聞くスコーピングという手続きが取られる。
図7−2−1 環境影響評価法(環境アセスメント法)の手続きの流れ
●環境ビジネス
環境に関連したビジネスのこと。
経済協力開発機構(OECD)によると、環境ビジネスは以下の3つに分類される。
また上記の環境ビジネスの他に、環境に配慮した製品やサービスの需要を高める方向に市場を誘発する事業を広い範囲で環境誘発型ビジネスと呼ぶ。
環境ビジネスの拡充については、平成16年度の環境白書で以下のような説明がされている。
最近では地域コミュニティレベルで、地元の住民、企業、NPO、NGOなどが、非営利性・公共性の高い社会サービス供給や商品の製造・販売などを行い、コミュニティを元気にしていく地域問題解決型のコミュニティビジネスが注目されている。
コミュニティビジネスは基本的にはその地域が基盤となるため、地域資源の有効活用・地域内循環を仲介・促進したり、潜在的には高いニーズがありながらも、一般営利企業や行政が手がけにくい商品・サービスであることが、その特徴と言える。